物理を専門としない学生向けの物理の教科書はどれも似たり寄ったりで、理学部や工学部の、つまり物理を専門とする学生向けの物理の教科書を少し易しくしただけのものが普通である。医学部の教員として振り返ってみれば、基礎・臨床医学の教員からは「もっと人体に即した物理をやってほしい」という要請があり、学生からは「難しい数式ばかり使わずに、わかりやすくて役に立つ物理をやってほしい」という希望があり、物理の教員自身は「それでも物理の体系をしっかり教えたい」と考えるという、この三者三様の食い違いが医学部の物理教育を難しいものにしてきたと言える。
本書は、この三者の要求の全てをそれなりに満たすための新しい試みである。すなわち、人体に関する応用を中心に章立てがなされており、全体を好きな順に学んでいけば自然に物理の体系に親しむことができる。医療系の学生にとって、具体例が多く興味を持ちやすいように配慮してある。一言で言えば、「人体で物理を学ぶ」「物理の人体への応用を学ぶ」ためのテキストである。
作成に当たっては、医学部だけでなく、歯学部、看護学部、薬学部、理学療法士、作業療法士、臨床検査技師、生命科学の研究者やロボットの開発者など、広い範囲の読者を対象として、さまざまな話題を展開するように心がけた。一方で、高校で学んだ内容(物理はもちろん、化学、生物、そして数学)とスムーズに接続するように配慮した。それらの知識を全て持っていることが望ましいが、簡単なまとめを最初に入れることで、知識がなくてもある程度理解できるようになっている。多くの学生諸君が、本書を活用して無理なく物理の素養を身につけてくれることを願うものである。
第1章 物理量と人体
1.1 物理量と人体
1.2 物理モデルと解析
第2章 力と身体バランス
2.1 静力学の基礎
2.2 力と身体バランス
2.3 骨・関節・筋肉
第3章 運動モデルとスポーツ
3.1 動力学の基礎
3.2 歩行・ランニング・跳躍
3.3 衝突・球技
3.4 水泳
第4章 熱とエネルギー代謝
4.1 熱とエネルギーの基礎
4.2 体温
4.3 人体における熱産生
4.4 人体における熱放散
第5章 圧力と循環・呼吸
5.1 圧力・流れの基礎
5.2 血液循環
5.3 呼吸
5.4 圧力差を利用した医療機器
第6章 音と聴覚・発声
6.1 音の性質
6.2 耳と聴覚
6.3 発声
6.4 音を利用した機器
第7章 光と視覚
7.1 光の性質
7.2 眼と屈折
7.3 眼と明るさ・色
7.4 光を利用した機器
第8章 電磁気と神経・興奮伝導
8.1 電磁気の基礎
8.2 神経系の電気的性質
8.3 心電図
8.4 生体と電磁気
第9章 波と画像診断
9.1 波と画像化の基礎
9.2 超音波
9.3 X線
9.4 γ線と核医学
9.5 電波と磁気共鳴(MRI)
9.6 赤外線
9.7 電子線と電子顕微鏡
第10章 放射線と人体
10.1 放射線の基礎
10.2 人体への影響
10.3 放射線治療
第1刷正誤表(2018.3現在)
第1章 物理量と人体
第2章 力と身体バランス
第3章 運動モデルとスポーツ
第4章 熱とエネルギー代謝
第5章 圧力と循環・呼吸
第6章 音と聴覚・発声
第7章 光と視覚
第8章 電磁気と神経・興奮伝導
第9章 波と画像診断
第10章 放射線と人体
ICT機器
代表:木下 順二